「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」 ちょっと目先を変えたミステリ展開。ネタバレややあり

The Conjuring: The Devil Made Me Do It(2021 アメリカ)

監督:マイケル・チャベス

脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック

原案:ジェームズ・ワン、デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック

製作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン

製作総指揮:ミシェル・モリッシー

撮影:マイケル・バージェス

編集:ピーター・グヴォザス

音楽:ジョセフ・ビシャラ

出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード、ジョン・ノーブル、ユージニー・ボンデュラント

 

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①邦題はミスリード

死霊館」シリーズ、アナベル「死霊館のシスター」などを含む「死霊館ユニバース」としては第8作

エドとロレインのウォーレン夫妻を主人公にした正篇「死霊館」としては第3作となる作品です。

死霊館」「死霊館エンフィールド事件」を監督したジェームズ・ワンは製作のみで、「ラ・ヨローナ〜泣く女」のマイケル・チャベスが監督を務めています。

 

「悪魔のせいなら、無罪。」ってなんかふざけた邦題で、死霊館よお前もか…と言いたくなりますが。

原題はそのまま実際にあった事件の名前で、アーニー・ジョンソン裁判は俗に"Devil Made Me Do It" caseと呼ばれているらしいです。

「“悪魔が私にそれをさせた”事件」ですね。

だから「エンフィールド事件」くらいのニュアンスの原題だと思うんですが。邦題はラノベみたいになっちゃってますね。

 

「殺したのは悪魔に憑依されたからだ」と被告人が主張。ウォーレン夫妻は悪魔の存在を証明して、無罪を勝ち取ることができるのか…というのが、宣伝の煽りになってますが。

実際の映画は、法廷シーンは最初と最後にちょっとあるだけ。ウォーレン夫妻は悪魔の実在を証明しようとする…わけではなく、悪魔を呼び出した犯人を探して対決する方向へ向かっていきます。

 

まあそこは、「本当にあった話」を売りにする以上仕方ないところですね。

ウォーレン夫妻が悪魔の実在を法廷で証明して、被告人が無罪と認められる…なんて展開にするわけにはいかない。実際にはそんな事実はなかったわけだから。

悪魔がどうのこうのについては、法廷では門前払いを食ってるのが現実ですね。

なので、予告などの煽りとは、映画は違う方向に向かってしまう。そこはちょっと残念なところではありました。

②新機軸のミステリ展開

1981年、ウォーレン夫妻は11歳のデイビッド・グラッツェの悪魔祓いを行いますが、その際にデイビッドの姉デビーの恋人アーニー・ジョンソンが悪魔に憑依されてしまいます。その後、アーニーは家主を22回刺して殺害し、逮捕。彼は殺人の容疑は認めつつも、それは悪魔に憑依されていたからだと主張します。エドとロレインは悪魔を呼び出した悪魔崇拝を追ううちに、また別の殺人事件に行き当たります…。

 

これまで2作の「死霊館」は、ある家に舞台を限定して、その家族を襲う心霊現象の恐怖を描いていくのが定番パターンでした。

今回は、ちょっと趣が異なります。いつものパターンの悪魔祓いは、冒頭で終了。

映画はその後の顛末を描いていくことになります。

 

いつもは取り憑いた悪魔を追い払って終わりだけど、今回はその先へ進んでいく。

エドとロレインのウォーレン夫妻が幽霊屋敷を出て、悪魔を召喚した「犯人」を追いかけていくことになります。

舞台を密室から屋外に広げ、これまで描かれていたことの背景を掘り下げていくわけなので、マンネリ回避としては正しい展開と言えそうです。

 

ここで導入されるのが、意外に本格的なミステリ展開

序盤の「裁判モード」を上手く活かして、ウォーレン夫妻が足を使って人に会って、地道に情報を集めていく、リアル感のある展開になっています。

死霊館」のミソは「本当にあった話」というお約束なんでね。まあ、プロレス的なお約束ではあるんだけど。

いきなり心霊ファンタジーに行き過ぎず、いかに実録モノの体を保つか!というのは重要なところです。

 

現場に戻って手がかりを発見し、そこから警察で情報を得て、よく似た別の殺人事件に辿り着いていく。探偵モノの定番の展開を、丁寧に描いていきます。

それでいて同時に、ウォーレン夫妻は心霊探偵なのでね。オカルト要素を混ぜ込んでいくのが巧みですね。

偶然に聞こえた列車の音から現場を特定するのはミステリの定番のパターンだけど、それを電話じゃなく霊視でやってる。

ミステリのお約束を守りつつ、ホラー要素を混ぜていくことで、上手いこと「死霊館」らしさを出した新機軸になっていたと思います。

 

 

③オカルティスト対愛の力

と言いつつ、いつの間にやら思いっきり自由なオカルトファンタジーの領域まで突き進んで行く…というのも「死霊館」シリーズの面白みですね。

 

大規模な悪魔崇拝者たちの犯罪も匂わせつつ、事態は一人の女性へと集約されていきます。

この女性、「オカルティスト」としかクレジットされてない女性のキャラクターが、なかなか際立っていて良いです!

今回は「人間の怖さ」に向かっていく…はずなのに、この人のたたずまいが「ほぼ妖怪」なので、ほとんど「ラ・ヨローナ」的な妖怪ホラーの様相になってきます。

「死霊館のシスター」のバラクを思わせるところもあるんですよね。

 

今回、エドが悪魔憑きのターゲットにされることで、これまであくまでも部外者だったウォーレン夫妻が当事者として巻き込まれていく。これも新機軸でした。

取り憑かれたエド「シャイニング」的暴走を見せて、ロレインが「愛の力」で対抗する。まあ、ここまで来ると実録感もへったくれもない、既視感ある展開ではありますけどね。

エドとロレインの馴れ初めまで掘り下げて、キャラクターの魅力を上手く活かした展開を作っていたと思います。

④悪魔から人間へのシフトがもたらすもの

観ていてちょっと思ったのは、いつものパターンから離れて新機軸を打ち出した結果、ホラー映画としては逆に「普通」になってしまった印象もあります。

 

これまでの「死霊館」のホラーシーンは、割と臆面もない「急にデカい音を出す」とか「暗闇から急にバッと出る」とかの、お化け屋敷的怖がらせ。「ビックリさせ」だったと思うのですが。

「取り憑いた悪魔の仕業」という前提を押し通すことで、そういう怖がらせ方を上手いこと正当化できていたと思うのです。

悪魔は意地悪で、意味もなく人をビビらせて喜ぶモノだからね。攻撃としては無意味でも、ただホラー映画的に美味しい「怖がらせ」が逆に悪魔らしさとして通用する。

 

今回、敵を人間に設定したことで、目的や意思のある攻撃が主になっていて、その辺の旨みは弱まってしまったように思います。

また今回、悪魔が道具のように使われてしまっているとも言えて。

人間の理解を超えた、超越的な存在としての悪魔像も、やや弱まった感があります。

いや、面白いんだけどね。「普通の」ホラー映画として、十分スリリングな、面白い仕上がりになっていたと思います。ただ、いつもの武器は捨ててしまったな…と思って。

まあ、シリーズが続く以上仕方のない。マンネリとの兼ね合いで、難しいところですね。

⑤「実際」を想像する面白みも…

裁判の部分はまた最後にちょっとだけ出てくるんだけど、「アーニーは有罪で5年服役した」ってガクッとなりますね。無罪とちゃうんかい!って。

まあ、そこは邦題のせいなんだけど。それにしても、本作の「実話」部分はあまり上手く作用したようには思えないな…。

 

実際に起こった事件を冷静に見てみると、これたぶん、たまたま身近で起こった悪魔憑き事件を上手いこと利用して、前々から殺したかった職場の上司を短絡的に殺した(そして結局裁判では取り合ってもらえずアテが外れた)ってことだったんじゃないのかなあ…とか。

ウォーレン夫妻にしても商売上、悪魔憑きを主張されたら同調しないわけにはいかないけど、内心じゃ結構参ったなあ…なんて思っていたのではないだろうか…とか。

いろいろと実情を想像する方が、映画の方向よりも楽しかったりして。

 

でも、その辺もあの殺された人がすごく「イヤな奴」に描かれていたりして、映画の方もちょっと含みを持たせてある気もします。

実在の人物を題材にした「川口浩探検隊」的映画である本シリーズの、なかなかスリリングなところが今回ちょっと見えてきてるかもしれない。

そこも含めて面白がるというのも、本シリーズならではの見方かもしれないですね。